2014年5月5日月曜日
バルテュス展(東京都美術館)
今年、最も楽しみにしていた展覧会の一つ。
バルテュスといえば、どうしても、少女のエロティックな絵を描いた画家、というイメージが強い。
夢見るテレーズ、という作品は、まさにそうした作品。部屋の中の長椅子に、前半身を起こし、座っている少女が、無邪気に足を広げて、白い下着が除いている。
こんな絵は、小さい子には見せられないのでは?と思ったが、会場には小学生くらいの子供も訪れていた。マジックペンで絵を書けるボードのようなものが、入口に用意されており、希望すれば、それを使って、バルテュスの絵を模写することができるようだ。
さて、よくよく夢見るテレーズを見ると、そのテレーズのポーズも、構図が工夫されていることがわかる。
左手には、イスと棚があり、棚の上には壷やシーツが描かれ、セザンヌの静物画のパロディのようにも見える。画面の右下では、一匹のネコが、皿の中の水を飲んでいる。
この1枚の絵だけからでも、この画家の複雑な世界観が読み取れる。
同じく少女を描いた、美しい日々。暖炉の前で、カウチに座った少女が、鏡で自分の美しさに見入っている。
少女の体の線が、ちょうど画面を左上から右下に流れていて、画面の構成を2つに分けている。右側では、男が暖炉に火をくべており、左側には窓、机、その上の白いたらいが描かれている。
この絵も、まるで記号の洪水のような作品で、この絵の中に没頭すれば、そこからいろいろなことを読み取ることが出来るだろう。
中でも、少女のポーズが気になる。体をまっすぐに伸ばしながら、左膝を立て、右手は下にだらんと伸ばしている。それが、全体として不思議な幾何学模様になっている。
バルテュスの他の人物画に置いても、人物のポーズは、いずれもどこか違和感を感じさせる、不思議なポーズが多い。
さて、会場は、こんな絵ばかりかと思いきや、意外と風景画が多かった。バルテュスは、第2次大戦後にパリを離れ、シャンパーニュ地方のシャシーという田舎町で暮らすようになり、それから風景画をよく描くようになったという。
1960年に描いた、樹のある大きな風景、という作品は、セザンヌ的な構図を、平面的なタッチで描いている。
晩年の1990年代に訪れた村の風景を描いた、モンテカルヴェッロの風景、という作品では、筆使いはもっとシンプルになっている。
ネコも、バルテュスが好んで描いたテーマ。11歳の時に、ミツというネコを主人公にした物語を作り、その絵も描いた。
人物画の中に、脇役として登場することが多いネコだが、地中海の猫、という作品では、ネコが主人公に躍り出ている。
ネコが海沿いのテラス席にエプロンをして座っている。海の中から、魚が虹を描きながら、そのネコの目の前の皿に飛んでくる、という、まるで童話のような絵画。ロリコン画家のイメージとは、およそかけ離れたような作品だ。
バルテュスは、少女とネコをテーマにした作品が多いことについて、少女は、その純粋であること、ネコは、誰にも媚びないこと、をその理由として上げている。
また、自分のことを、芸術家ではなく、単に絵を描く画家であり、職人のようなもの、と語っていたという。
バルテュスは、当初は話題となることを狙って、少女のエロティックな作品を作ったことを認めている。
この画家ほど、そこに描かれているテーマによって、その作品が解釈されてしまう、ということを表す画家も珍しいだろう。
絵を見るということが、どのようなことを意味するのかを、バルテュスの作品は、問いかけているように思える。
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