2014年11月29日土曜日

カンタと刺子 ベンガル地方と東北地方の針仕事(日本民藝館)


東京、駒場の日本民藝館には、これまで何度となく訪れてきたが、これほど多くの来場者を目にしたのは初めてだった。

日本民藝館では、入り口で靴を脱いでから館内に入るが、その大きな玄関でさえ来場者の靴が置き切れずに、入り口の外にも数多く置かれていた。

スリッパを履いてからも、通常は考えられないような、長蛇の列に並んでから、ようやくチケットを手にすることができた。

受付の女性によれば、特にテレビなどで紹介されたとかということでなく、3連休の間の日曜日で、最終日の1日前だからではないか、とは言っていたが、それにしても、この混み方は尋常ではない。

今回の特別展の内容は、インドのベンガル地方の刺繍、カンタ。

2階の大展示室に入った途端に、その色鮮やかなカンタの世界が目に飛び込んできた。

白地の大きな布に、赤、青、黄、緑などの色を使って、植物や動物、人間たちが、素朴な趣で縫い込まれている。

床に敷いて敷物として使ったのだろう。描かれている風景は、四方から見ても楽しめるように、それぞれの方向に向いた絵柄になっている。

そうした絵柄は、それぞれが単独のデザインではなく、全体で物語を表現しており、まるで、形を変えた絵本のようだ。

具体的な物語の内容は分からないが、ベンガル地方とは遠く離れた日本で暮らしてきた私のような人間でも、その物語の概要は、あれこれと想像することができる。

そうした刺繍は、ベンガル地方の女性たちが、結婚やお祭りのために、子供の成長を願ったり、自分の村で起こった出来事などを記録するために作ったという。

しばらく見ているうちに、その素朴で色鮮やかな夢のような世界の虜になっている自分を発見した。

そして、どうして、これだけ多くの人々が、この特別展を訪れているのか、その理由がわかったような気がした。

一方、別の部屋には、日本の東北地方の厚い羽織などの着物が展示されていた。こちらは、対照的に藍色一色。模様も、菱形をベースにしたものが多い。

文字通り、所変われば、品変わる。どちらも、紛れもない民藝で、この美術館には、実に相応しい内容の特別展だった。

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