2014年11月16日日曜日

国宝 鳥獣戯画と高山寺(京都国立博物館)


日本のマンガの祖、といわれる高山寺の鳥獣戯画。

2013年に、足かけ4年にわたる保存修理が終わり、その鳥獣戯画が全巻、前期と後期に分けて、京都国立博物館で公開された。

久しぶりの全巻公開とあって、京都国立博物館には、連日、多くの人が訪れている。

私は、前期、後期共に、休日に訪れた。前期は、午後だったが、展示されている明治古都館に入るまでに2時間、そして、最も有名な甲巻を見るまでに、さらに1時間並んだ。

後期では、それに懲りて、開会1時間ほど前に並んで、開館後、甲巻も合わせてほぼすぐに見ることができたが、明治古都館を出た頃には、明治古都館に入るまでに4時間待ち、甲巻を見るまではさらに1時間弱の長蛇の列ができていた。



さて、その鳥獣戯画はといえば、それだけの時間を待つにふさわしい、実に素晴らしいものだった。

甲巻は、最も有名で、ウサギとカエルの相撲などの絵が描かれている。ウサギ、カメ、そして猿を擬人化して描き、おそらくは、当時の為政者たち、あるいは人間社会のあり方を批判する、パロディになっている。

一見すると、たわいのないマンガのようにも見えるが、その絵の筆つかいは、実に繊細で、プロの絵師が描いていることがよくわかる。

乙巻は、馬、牛、犬、そして想像上の動物などの絵が中心だが、ここでは擬人化はされてはいない。

丙巻は、再び擬人化された動物が登場するが、当時の一般の民衆を描いた場面もある。

そうした人々の表情や仕草が、実にいい。地べたに座って、何かをして遊んでいたり、談笑している。誰もが、実に屈託のない、心からの自然な笑顔を浮かべている。

いつの時代も変わらない、人間という生き物の本質の姿が、そこには描かれている。

丁巻は、それまでの巻とは違って、かなり荒いタッチで、練習かあるいはスケッチのように見える。

あれだけ長時間並んでも、4つの巻は、意外に短く、あっというまに見終わってしまう。

この鳥獣戯画の作者は、おそらく、この絵を楽しんで描いたに違いない。

そして、それを見る私たちも、難しい理屈も知識も必要とせず、単純にその絵の世界を楽しむことができる。

そうした意味で、この鳥獣戯画という作品は、本当に素晴らしい作品だ。

さて、この展覧会の目玉は間違いなく鳥獣戯画だが、高山寺とその開祖、明恵上人にまつわる数々の展示品も楽しめた。

明恵上人の肖像画として最も有名な、樹下坐像図。こちらも国宝。鎌倉時代の肖像画で、切り株の上に座り、瞑想している明恵上人の姿が描かれている。

よくよく見ると、周囲の梢には、小さな小鳥が描かれている。動物を愛した、という明恵上人の人柄を、そうした場面で表現したのだろう。

明恵上人という人物をよく伝えている肖像画だとは思うが、絵の技法としてはそれほどでもなく、どうしてこれが国宝なのだろうか、と思ってしまう。

明恵上人は、日本ではややマイナーな華厳宗の僧侶で、華厳宗のまつわる仏典などの資料も多数展示されていた。

新羅の僧、義湘にまつわる龍のエピソードを描いた、華厳宗祖師絵伝。ダイナミックに海を泳ぐカラフルな龍の絵の場面は、素晴らしかった。

この展覧会は、来年の春に、東京国立博物館にも巡回されるという。

その際に、またぜひ足を運びたちと感じさせる、素晴らしい内容だった。

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