目白台の、ひっそりとした奥座敷のような場所にある、永青文庫。細川家のコレクションを収蔵している、ちいさな美術館。
周囲には、椿山荘、丹下健三設計のカテドラル、日本女子大、かつての田中角栄邸などが立ち並ぶ。
永青文庫の門をくぐると、ここが東京だということを、一瞬忘れてしまうような雰囲気に包まれる。
まるで、田舎に帰ってきたような気分でアプローチを進んでいくと、やがて、木々の間から、永青文庫の建物が見えてきた。まるで、大学の研究棟のような趣き。
”能を読む”という題名の、細川家の能楽関連のコレクションの展覧会。”細川家が一族で楽しんだある日の能”という洒落た副題がついている。
細川家の初代当主、戦国時代に生きた細川幽斎は、当時の武士のたしなみとして、観世元忠に能をならい、能楽者なみの能を舞うことができた。
展示室の入口には、その細川幽斎が書き写した、世阿弥の花伝の書がうやうやしく置かれていた。
この展覧会では、前期と後期分かれていて、それぞれ3つの能の演目に関連して、細川家に伝わる、数々の能面やきらびやかな装束を展示している。
前期で展示された翁の面は、聖徳太子が作成したと伝わる、由緒正しき能面。
世阿弥の花伝書によれば、翁という演目について、聖徳太子が自ら面を作り、秦河勝に演じさせたのがその始まりである、と記してる。
幽斎以降も、細川家の代々の当主は、金春座、喜多流の能楽師を保護していた。そうした当主たちが、自ら記した謡本なども展示されていたが、いずれも、読みやすい、はっきりした文字で、その内容を記している。
能楽には欠かせない、太鼓や小太鼓。能楽を楽しむときは、太鼓や小太鼓の音だけを聞くことになるが、その胴の部分には、精巧な蒔絵が描かれている。
作家の芥川龍之介は、細川家の能舞台で演じられた、隅田川、という演目を観て、その印象を文章に残している。
その中で龍之介は、”僕は兎に角「墨田川」に美しいものを見た満足を感じた”と書いている。
その言葉は、この展覧会においても、そのまま使うことができるだろう。
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