今夏、浮世絵太田記念美術館で開催されている、江戸の妖怪浮世絵のシリーズ展。
第1部では、鬼、天狗、化け猫などの化け物の浮世絵だった。
江戸妖怪大図鑑 第1部(浮世絵太田記念美術館)
第2部は、妖怪編。開催期間が8月中ということもあり、いわばこのシリーズ展のハイライトともいうべき内容。
幽霊画と言えば、やはり北斎の百物語をまず上げないと始まらない。
提灯を顔に見立てたお岩さん、桶から長い首が伸びているさらやしきなど、北斎の絵師としてのセンスが遺憾なく発揮された作品。
中でも、しうねん、という作品は、一見すると、妖怪は描かれてはいず、位牌と供物、そして蛇が描かれている。
死者の執念が、蛇となってこの世に残した未練、あるいは恨みを晴らそうとしている。
ある意味、おどろおどろしい妖怪が描かれているよりも、こちらの方がずっと怖い。
しかし、このシリーズは当時はあまり売れず、当初は100枚作る予定だったが、5枚しか作られなかったと言われている。
妖怪の浮世絵が表れるのは、歌舞伎の演目として幽霊が取り上げられる、1800年代になってから。
太平の世の中で、刺激が欲しくなったのか、あるいは、やがて訪れる時代の大きな変化を、先取りしたのだろうか。
いずれにしろ、歌舞伎の舞台からインスピレーションを受けて、浮世絵師たちのイマジネーションが炸裂した。
明治時代の月岡芳年は、社会的な事件を数多く描いたが、そのうちの1枚。
殺人を犯して逃げ回ってきた犯人が、警察に自首してきた。犯人によれば、殺した人々が、昼夜幽霊となって表れ、執拗に苦しめるのだという。それに耐えられなくなって自首したという。
月岡芳年は、江戸時代の浮世絵師たちとは違った、抑制された乾いたタッチで、犯人の周囲に、彼を苦しめる何人かの幽霊を配して描いている。
いつの時代も、幽霊の姿には、無念でこの世を後にせざるを得なかった、人々の思いが、そのままダイレクトに表れている。
0 件のコメント:
コメントを投稿