2014年8月3日日曜日
冷たい炎の画家 ヴァロットン展(三菱一号館美術館)
パリで30万人、アムステルダムで50万人を動員した、というヴァロットンの大規模な回顧展。
日本では、ほぼ初めてとなる回顧展とのこと。
ヴァロットンは、スイスで生まれ、16歳でパリに出て、絵描きとしてのキャリアをスタートした。
20歳の自画像。技術的には、すでに申し分のない、立派な画家の技量を示している。
正面ではなく、横を向いて、斜めにこちらに顔を向けているその自画像に、この複雑な画家の性格が表れているように見える。
ヴァロットンは、始め、ボナール、ヴェイヤール、ドニらとともに、ナビ派の画家として、絵を描いていた。
室内を描いている何枚かの作品は、その時代の作品だろうか。しかし、ヴィヤールやドニの作品とは、少し違った印象を受ける。
人物や家具などの描き方は、輪郭線がはっきりしており、色もタップリと絵の具が塗られている。
子供がボールを追いかけている、”ボール”や、”貞節なシュザンヌ”など、ミステリアスな絵画が話題になっているが、ヴァロットンは、決して、そんな絵ばかりを描いていたわけではない。
アフリカやルーマニアの女性を描いた人物画、”白い砂浜、ヴァスイ”などの風景画は、個性的ではあるが、それほどミステリアスな雰囲気は、感じられない。
月の光、という小規模な作品では、夜の闇の中の、月の光が印象的に描かれている。まるで、金細工を使った、日本の琳派の作品のような雰囲気をもっている。
私がとりわけ印象的だったのは、やはり、版画の作品だった。
アンティミテという、男女の微妙な関係を描いた10枚ほどのシリーズ。真っ黒いシルエットと、白の対比が、二人の関係をドラマチックに表現している。
ヴァロットンは、日本の浮世絵にも関心があり、自らも、何点かの浮世絵をコレクションしていた。そうした作品から、何らかのヒントを得たのかもしれない。
パリの様子を描いた版画作品では、民衆の行動をユーモラスに描いており、ヴァロットンの風刺の心が見て取れる。
小説などの挿絵も、数多く手がけていたようだ。
最後のコーナーでは、戦争に関する何点かの作品が。
ヴァロットンは、第1次世界大戦の際は、従軍画家として活躍し、その様子を、油絵や版画として残している。
グリュエリの森とムリソン渓谷という作品では、丘陵のような所に、低い木が一面に渡り生えているが、それが、戦死者の墓碑のように見える。
ヴァロットンの、また違った一面を垣間見た気がした。
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