2014年1月4日土曜日

大浮世絵展(江戸東京博物館)


普段は、あまりそうしたことはしないのだが、珍しく、オープン初日に訪れてみた。両国、江戸東京博物館での大浮世絵展。

さすがに、お正月休みとあって、初詣帰りと思しき多くの人々が訪れていた。観光客だろうか、外人の姿も多い。

国際浮世絵学会の50周年と、江戸東京博物館の開館20周年を記念した、大々的な展覧会。

菱川師宣に始まり、鳥居清長、奥村政信、鈴木春信、勝川春章、喜多川歌麿、東洲斎写楽、歌川豊国、渓斎英泉、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳、月岡芳年、小林清親、伊東深水、川瀬巴水、といった、主要な浮世絵師の作品が一同に展示される。

まるで、浮世絵の教科書が、そのまま会場に再現されたかのような展覧会。

入口を入った場所に、俗に彦根屛風と言われる、風俗図屏風が展示されている。東京会場で展示される唯一の国宝。その素晴らしは、国宝の名に恥じない。

江戸時代初期に描かれ、その頃の風俗が描かれている。左の屏風には、まず大きな水墨の山水画がある。その前で、盲目の琵琶法師が、平家物語を吟じている。同じく、水墨画の前で、双六に興じる若い男女。

右の屏風には、若い男が、洒落た着物を着て、刀をつっかい棒のようにして、体をくねらせながら、若い女性をナンパしている。その若い男の左手には、若い女性が、子犬を散歩させている。

まず、その衣服の美しさに感心する。そして、人々は誰もが笑っている。その表情が実にいい。長い戦国時代が終わり、平和の時代の訪れが、そのような表情に表れているのだろうか。

菱川師宣の北楼及び演劇図鑑。吉原や歌舞伎小屋の様子が描かれている。師宣の見返り美人のあのカーブ、師宣カーブが、画面の中のあちこちに発見できる。

直線的に描かれる男性と、着物の線を使って、曲線的に描かれる女性。その対比が実に見事。菱川師宣のこの絵のセンスが、後の浮世絵師たちに、いろいろな形で受け継がれていく。

しかし、菱川師宣の絵は、一般的に言われる”浮世絵”という感じはしない。錦絵と言われる、18世紀中頃、明和年間の鈴木春信の作品あたりからは、ようやく、”浮世絵”になってくる。

その鈴木春信の雪中相合傘。少年と少女のような、幼く描かれた男女の、雪の中での道行きの姿。美しい、とにかく美しい。恋人たちを描いた作品として、この世で最も美しいものの一つだろう。

この作品は、大英博物館の収蔵品。この展覧会には、この他にも、フランスのギメ東洋美術館、ドイツのベルリン国立アジア美術館、アメリカのシカゴ美術館など、世界中の浮世絵コレクションからの作品が展示されている。

18世紀末から19世紀の初頭にかけて、浮世絵は黄金期を迎える。鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、歌川豊国といった、浮世絵のスーパースターたちの作品が並ぶ。

喜多川歌麿が描いた江戸の美女たちは、現代的な観点では、とても美女には見えない。極点に目を細く描いたその女性たちは、よくよく観察しないと、そもそも、その違いがわからない。

現代の日本人は、当時の人々が感じた美意識を、忘れてしまったのだろうか。あるいは、当時でも、そのように感じたのだろうか。

そして、19世紀初頭から幕末にかけて、浮世絵は円熟期を迎える。

葛飾北斎の百物語の妖怪図、凱風快晴(赤富士)、神奈川沖浪裏。北斎の作品の前は、終止、人影が耐えない。しかも、ちょうど角になる位置に展示されているので、その混雑に拍車がかかる。

北斎の端午の節句、という肉筆画。兜と花菖蒲を、奇抜なアイディアで組み合わせた北斎らしい作品。これを書いたとき、北斎は85歳だったというが、鎧の組紐の一本一本までを丹念に描いている。署名には、画狂老人卍筆、とある。恐るべし、北斎。

その絵の隣には、北斎の娘、葛飾応為の夜桜図が展示されている。女性絵師の作品が、こうして展示されるのは珍しい。絵師としての技術は、確かなものだ。

東海道五十三次の広重の時代になると、浮世絵の版画としての技術は、驚くべく発展を遂げる。広重の木曽街道シリーズの洗場を見ると、木々の一本一本、夕焼けの微妙な空の色合いが、見事に表現されている。

浮世絵には、そこに描かれている江戸時代の人々、風景だけではなく、江戸時代の技術の発展が、表れている。

明治時代を迎えると、浮世絵は、その時代の様子を描く、という本来の役割を発揮する。洋風の建物、鹿鳴館での演奏会など、それまでの絵師たちが描かなかったイメージが登場要する。

伊東深水の美人画は、決して歌麿の美人画に劣るものではないし、川瀬巴水の風景画は、その表現の繊細さにおいては、広重に勝っているかもしれない。

しかし、浮世絵は、西洋の版画の技術に圧され、次第にその姿を消していった。

最後に、会場となった江戸東京博物館について一言。

多くの作品を展示するための展示替えは、決して珍しいことではないが、今回は多すぎ。開催期間の2ヶ月間のうち、ほぼ毎週何らかの展示替えがある。

この博物館は、バブル期に建てられ、特別展の会場は狭いが、通常展の場所を使えば、もっと多くの作品を展示できるはずだが、そうした工夫は行わないようだ。

しかも、通常は、展示替えがある場合は、リピート割引を行うケースが多いが、今回は行われてない。これは、明らかに不親切だ。

大浮世絵展、という仰々しい名前に比べて、お粗末な展示、という感がなくはない。

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