2014年6月1日日曜日

それぞれの近代美術(府中市美術館)


戦前、日本の植民地だった、韓国、台湾、満州において開催された、官展への出展作品を集めた、興味深い展覧会。

会場は、東京、ソウル、台北、そして長春という3つのコーナーに分かれていた。

山口蓬春の市場。ソウルの市場と思しき風景。市場の露天の屋根に使われている、白い布が、ちょうど洛中洛外図の金箔の雲のよう。その合間から、韓国の民族衣装を着た人々が行き交う、市場の様子がのぞいている。

梅原龍三郎の長安街。緑の木々の間に、赤茶の建物が所々に建っており、その色の対比が実に美しい。

イ・インソンの窓辺という作品は、マチス風のタッチで、窓辺の室内の風景を描いている。部屋の中の色の基調となっている赤が、何とも言えず、美しい。

イ・デウォンの庭。ゴーギャンのような、あるいは、ミロのような、個性的な画風で、農家の庭を描いた作品。地面の、赤黒い土の色が、印象的。

郭雪湖の円山付近。台湾の台北の郊外の風景を描いている。大作だが、農村の風景を、葉の一枚一枚まで描く、丹念な筆使いで描いている。全体の基調は緑で、そこに、土の薄い茶色がとけ込んでいる。

何気ない農村風景だが、桃源郷の風景のようにも見える。東洋人の心の中にある理想郷の姿が、そこには描かれているようだ。

陳進のサンティモン社の女。台湾の原住民の家族を描いた人物画。二人の女性が着ている民族衣装が、実に美しい。

こちらを見つめている、子供の表情は、ふだん抱いている台湾人のイメージとは違って、目鼻立ちがクッキリとしている。台湾という土地の、複雑な歴史が、この一枚の絵の中に、見事に表現されている。

満州の長春でも、戦前に官展が開かれたが、戦争の影響で、ほとんどの絵画は失われてしまった。当時の官展の様子を映した写真が、絵の代わりに展示されている。

そんな中でも、広大な農地を描いた、リョウ・ロンフォンの2つの作品は、他の失われた絵画を想像させる。

展示されている絵画のみならず、芸術、芸術家と国家の関係など、いろいろなことを考えさせてくれる、興味深い展覧会だった。

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