2014年3月22日土曜日
あなたの肖像 工藤哲巳回顧展(東京国立近代美術館)
とにかく、強烈なインパクトのある展覧会だった。
工藤哲巳の名前は、全く知らなかった。しかし、昨年、この展覧会のパンフレットを手にした日から、この日をとても楽しみにしていた。
その期待は、全く、裏切られることはなかった。
男性性器をデフォルメした形状を使った作品、インポ哲学。この男性性器のような、昆虫のサナギのようなフォルムは、工藤の生涯を通じて、一貫して使用された。
その形状から、何の説明もいらず、世界中のどこでも、見る物に圧倒的な印象を与える。草間弥生も若い時期にこの形を多用した。インドのヒンドゥー教に置いても、リンガとして表現されている。人類にとって、最も強力なイメージだろう。
アンフォルメル運動を主導していたミシェル・タピエは、来日した際に、若き工藤の作品を目にして激賞した。その後、工藤は、ある美術賞で最優秀賞を獲得し、その賞品として1962年に半年間のパリ留学の権利を得た。
工藤は、妻の弘子とともに訪れたパリにおいて、センセーショナルな”ハプニング”を行い、大きな話題をさらった。そこでも、あのイメージは効果的に使われていた。その後も、長くヨーロッパで活動することになる。
この展覧会の名前にもなっている、あなたの肖像、という作品は、見る物を挑発する。誰もが、”これは私ではない!”と反発するだろう。
その作品は、4つの箱が重ねられており、その中に、巨大な目や唇、耳などが入っている。実にグロテスクだ。
この作品に限らず、工藤の作品は、いずれも生命観に満ちている。人工的な、直線的で、清潔感が感じられるものではなく、何か、どろどろ、ぬめぬめしていて、生々しい。
工藤は、ヨーロッパで活躍していた時代、放射能や環境汚染に関する作品も作り、エコロジーという思想にも深い関心を持っていた。
当然のことだが、工藤は、センセーショナルな作品とハプニングによる話題作りに周囲する、単純な前衛芸術家ではなかった。英語もフランス語もこなし、時代の流れを的確に見通す、高いインテリジェンスを持ち合わせていた。
1980年以降の作品には、色鮮やかな細い糸を使った作品が増えていった。いつのまにか、男性性器やグロテスクさは消え、実に美しい作品に仕上がっている。
工藤は、母校の東京芸術大学で教えていた1990年に、55歳の若さでこの世を去った。近年、世界中で再評価が行われ、その回顧展が開かれているという。
工藤は常に、社会に対峙する作品を作り続けてきた。工藤の生きた時代、1960〜80年代にかけては、そうした芸術家が多くいた。
現在では、すべてが、市場に取り込まれ、多くのアーティスト達は、その中での成功をひたすた目指しているように思える。
工藤のようなアーティストを持てない社会は、果たして、健全な社会と言えるのだろうか?
そんなことを考えながら、会場の東京国立近代美術館を後にした。
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