2014年2月8日土曜日
ユートピアを求めて(神奈川県立近代美術館 葉山)
相模湾を臨む、風光明媚な葉山の地にある、神奈川県立近代美術館 葉山。私が好きな、美術館の一つだ。
そこで、松本瑠樹コレクション ユートピアを求めて ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム、という名の展覧会が開催された。
松本瑠樹は、ファッションブランドのデザーナートして活躍したが、ポスターのコレクターとしても、世界的にその名が知られているという。そのコレクションから、ロシア革命前後のポスターが、およそ180点、展示された。
革命以前の1914年、画家のマレーヴィッチが絵を描き、詩人のマヤコフスキーが文章を書いた、反ドイツ色の強い、版画作品。ルボーク、というロシアの伝統的な素朴な版画の形式を使っている。
当時、ロシアはドイツを第1次世界大戦で戦っていた。ロシア革命以前から、ロシアのアーティストたちは、国家のプロパガンダを作成する、運命を担わされていたのか?その構図は、ロシア革命後も変わらない。
この展覧会の目玉とも言える、映画の宣伝ポスターの数々。
ロシア革命後、混乱する社会の中で、レーニンの共産党は、識字率の向上と、社会への不満のはけ口として、映画を活用することを計画し、映画産業を国有化して、積極的に全国で映画を公開した。
革命芸術家たちには、そうした国策の映画のポスターを作成する、というミッションが与えられた。
展示されていたポスターのほとんどは、ステンベルグ兄弟とニコライ・プルサコーフの作品。映画の内容を効果的に伝えるため、出演者のしぐさや表情、映画の中の一シーンを、大胆にデフォルメしている。
写真のポスターではなく、イラストレーションで書かれているのが、現在から見ると、実に新鮮に見える。
中には、アメリカのハリウッドの作品や、ヨーロッパの別の国の映画のポスターもある。当時のロシアには、全国の映画館で、公開するのに十分なロシア、ソ連製の映画は、まだ作成されていなかった。そこで、外国の映画も多数公開されていた。
社会主義を安定させるために、資本主義国の映画を公開する、という皮肉な状況。同じ時期に、映画だけではなく、革命政府は、農業の分野において、一部の市場原理を認めるネップという政策を行っていた。
最後のコーナーには、1927年の第一次五カ年計画後の、政治的なプロパガンダを意図したポスターの数々。石炭や鉄鋼の生産計画と実績の数値などが、わかりやすいように、効果的なグラフ、数字のフォントなどが使われている。
ロトチェンコによる、ロシア革命以前からの共産党の歴史を、写真や資料などをまとめ、シリーズ物として作成したポスターの連作が展示されていた。
文章で表現したら、何冊にもなってしまうロシア革命の歴史が、コンパクトにポスターにまとめらている。とてもわかりやすい。まとめて出版されたら、最良のロシア革命史の一つになることは、間違いないだろう。
どこかの出版社で、出してもらえないだろうか?
やがて、時代はスターリン時代を迎える。ロシア革命当初、芸術の面から革命を支えた、ロシア・アヴァンギャルド芸術家たちは、その多くが、やがて悲劇的な結末を迎えることになる。
マレーヴィッチは、一介の技師となり、具象的な絵画を描くごく普通の画家になった。マヤコフスキーは、1930年にピストル自殺を遂げた。
やがて、そのスターリンも死に、ソ連自体が、1991年に崩壊した。
残されたポスターの数々は、かつて存在し、世界中に大きな衝撃を与え、文字通り世界史を塗り替えた、ソ連という国の、複雑な歴史を、今に伝えている。
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