2014年2月8日土曜日

ラファエル前派展(森アーツセンターギャラリー)

東京、六本木の六本木ヒルズにある、森アーツセンターギャラリーで開催された、ラファエル前派の展覧会。

イギリス、ロンドンのテート美術館が改装中のため、同館が収蔵する、ラファエル前派の代表的な作品が展示され、日本のラファエル前派ファンにとっては、奇跡のような、夢の展覧会となった。

英国ヴィクトリア朝絵画の夢、という副題がついている。ラファエル前派の画家たちが見た夢とは、一体どんなものだったのか?

ジョン・エヴァレット・ミレイのオフィーリア。言わずと知れた、シェークスピアのハムレットのヒロイン。愛するハムレットに絶望し、正気をなくし、川に身を投げたオフィーリア。手に花を持ちながら、川面に流されていくオフィーリアを描いている。

森の緑の中を流れる小川に、美しい女性が、恍惚とした表情で、美しい花を手にしながら、流されていく。自然、花、美しい女性、シェークスピアの物語。

おそらく、ミレイは、ラファエル前派の画家たちの中で、絵画を描く技術ということだけで言えば、最も高い技術を持っていただろう。

ラファエロ前派という名前は、彼らが、ラファエロの『キリストの変容』という有名な作品を批判したことに由来している。ラファエロ以前、ルネサンス以前の芸術に戻るべきだという、いわば、芸術的な復古運動だった。

ウィリアム・モリスの麗しのイズー。妻のジェイン・バーデンをモデルに使い、トリスタンとイゾルデの、イゾルデ(イズー)を描いた、モリスの唯一のイーゼル絵画。

舞台はしかし、19世紀末のイギリスの部屋の中。薄いピンクのドレスをまとって、画面の中央、ベッドの前で、イズーが憂いをおぼた表情で、立ちすくんでいる。

ジェイン・バーデンは、ロセッティのモデルも務め、このモリス、ロセッティ、ジェインは、奇妙な三角関係を持っていた。

中世のロマンチックな物語を、身の回りの美しい女性をモデルに、当時のイギリスの風景の中に描く、というラファエロ前派のコンセプトを代表するような作品。

エドワード・バーン=ジョーンズの水彩画の小品、シドニア・フォン・ボルグ 1560年、という作品。小説の中の一人の婦人を描いた作品。

ロープが絡み合ったような、不思議な柄のドレスを見にまとった女性が、後ろを振り返っている。画面のほとんどは、そのドレスが占めており、デザイン性に跳んだ作品。

ダンテ・ガブリエル・ロセッティのベアタ・ベアトリクス。イタリアの詩人、ダンテの永遠の人の姿を、自らの若くして亡くなった妻、エリザベス・シダルをモデルに描いている。ラファエロ前派を代表する作品。

同じく、ロセッティの、やはり、ラファエロ前派を代表する作品、プロセルピナ。古代ギリシャ神話に登場する美女で、ざくろを口にしてしまったせいで、天上と地上の世界の二つの世界で生きなければならなくなった。

ロセッティは、その女性を、ジェイン・バーデンをモデルに描いている。どう見ても、自分と、モリスの妻であるジェインとの関係を、絵の中に持ち込んでいるとして思えない。

そのエピソードを知らなくても、この絵は十分に美しい。しかし、その背景を知ってしまうと、この絵は、また違ったものに見えてくる。

ミレイ、ロセッティ、バーン=ジョーンズ、そしてモリス。奇しくも、彼らは皆、1820、30年代に生まれ、1880、90年代に亡くなっている。活躍した時期は、19世紀の後半だった。

ラファエロ前派の画家たちが抱いて、描こうとした、英国ヴィクトリア朝絵画の夢。それは、鮮やかな色合いで、美しい女性たちの姿で描かれているように見えるが、実は、あまりにも、はかないものだったのかもしれない。

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