2014年2月1日土曜日

川瀬巴水 郷愁の日本風景展(千葉市美術館)

千葉駅からほど近い、千葉市美術館で開催された、川瀬巴水の版画の展覧会。版画、という形式の表現力の豊かさを、目の当たりに実感できる展覧会だった。

巴水は、明治16年に東京で生まれ、関東大震災や、太平洋戦争などを経て、昭和32年に亡くなるまで、日本全国の各地を訪ね、その風景を描いた。

版元の渡邊庄三郎は、その巴水の描いた、旅情が溢れる日本の風景を、最高の版画技術で、世界が認める版画作品に仕立て上げた。

とにかく、一枚一枚の、版画の見事さに目を奪われる。

夜の闇、しんしんと降り続ける雪、夕日や朝日の微妙な光、強い横風の中で斜めに降る雨など、絵画でも表現すこと自体が難しいテーマを、版画を使って、見事に表現している。

勿論、その元となる絵画の出来が悪ければ、いかの版画の技術が優れていても、完成品としての出来は半減する。

巴水の描く風景は、”古き良き日本”という誰もが持っているイメージを、そのまま、何のてらいもなく表現している。

そこには、北斎や広重の影響があり、明治維新後にもたらされた、西洋画の影響も見て取れる。

鹿児島の桜島を描いた版画。海の青、山裾の緑、そして山頂に照らす夕日の赤。そうした微妙な色の表現を、5枚9面の版木で表現している。

その5枚の版木も合わせて展示され、いかに刷り師の力量が、版画の完成度に影響を与えているかが、よくわかる。

残念ながら、巴水の作品の版木の多くは、関東大震災による火災によって、消失してしまう、残っている物は、ごくわずかだという。

巴水の版画は、太平洋戦争以前にも、アメリカで評判を得ていたという。

戦争が終わり、日本に駐在していたアメリカ兵の中は、帰国の土産に、巴水の版画を買い求める者が多かった。それは、巴水の絵、ということでなく、そこに描かれている風景が、いかにも日本的だったからだ。

川瀬巴水の版画を見てくると、それらの作品は、いわゆる”芸術家”としての個性が生み出したものではなく、絵師と刷り師の技術の賜物である、という思いを強くした。

この展覧会に展示された、およそ200枚ほどの作品の、どれかひとつを取り上げてみても、川瀬巴水、という名前を知らなかったとしても、そこに描かれている風景を、その版画自体を、何時間でも楽しめるに違いない。

0 件のコメント:

コメントを投稿